国家の進出方向

2019年05月28日


前回の続きです。



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★エネルギーの向かう方向性
こうして見ると「①」の明治開国頃の大国のパワーの向かう先は、


清国=半鎖国状態で周辺国への無理な進出は行わない

英国=海洋貿易と拠点の確保による通商と現地生産物の支配売買が主な目的

ロシア=領土支配と海洋進出が目的

清国が朝鮮をめぐり日本と争ったのは、領土的な野心と言うよりも周辺諸国を支配する盟主国としての面子の意味合いが強く、実質朝鮮と日本を影響下に置こうとしていたのは、海の英国と陸のロシアの二大国で、この二大国の動向が極東におけるパワーバランスを決めたと考えられます。

既に清国の経済と通商を影響下に置きつつあった英国は、この利権を確保し続ける事が目的で、ロシアはこれから利権や領土を奪うのが目的となります。

つまりこの時点で、ロシアがどの様な行動に出るかで周辺国の安全保障が決まる事を考察の基準に置くと、ロシアの満州支配や海洋進出に影響を与える事の出来る朝鮮半島は、ロシアの利益になる行動をとる事で、ロシアやロシアの敵対国から利益を毟り取れる可能性が有ります。そしてこの事と宗主国との清国との間でバランスを取る事で安全保障を確立する、その様な外交行動を行う事が予測できます。

なお日本の場合、海洋勢力のスーパーパワーは大英帝国しかなく、それ以外の国と同盟を結んでも英国海軍と敵対できないため、必然的に海洋進出しようとするロシアを何とかする為に、英国と同盟を組みお目こぼしを頂く言う選択肢を取らざるを得ません。

また英国も必要以上に大陸情勢に引きずり込まれない様にするために内陸部までの進出は行わない事が考えられ、この事からも清露の間でバランシングを取るであろう朝鮮半島に深入りする事は避けてしまい、結果として日本が安全保障の為に朝鮮半島をめぐってのロシアとの対立を深めなければ成らなかったのだと考えられます。

この日英と言う要素を見た場合、朝鮮半島の勢力は清露のどちらかと手を結ぶしかなく、この二大国を天秤にかけられる状況が当時の李氏朝鮮の主体性の無い外交に繋がったのだと考えられます。、

これは二つの大陸の大国と一つの海洋大国に挟まれ、大陸国家の内のロシアが南下政策を採用していたため生じた行動だと考えられます。


「②」の日露戦争後は、極東における国家間の格付けが終了し国境も確定。

清国=絶賛衰退解体中

大英帝国=極東における離間を確立

ロシア帝国=衰退し極東における拡張主義は終了

大日本帝国=経済的に満州に進出。朝鮮半島を併合


見て分かるように大国間では領土拡張では無く、利権の維持と安定が目的となっており、精々日本が朝鮮半島を通り経済的に満洲に進出しようとしている以外では国家間のバランス変化は起こりえない状況と成っています。等の日本も安定期に突入した極東において無理な戦争は行わず(行う必要が無い)経済的権益を求めて爆進しました。

この頃の朝鮮半島は、ロシア清国共に手を引き、日本も三度目の侵略経路提供外交を行われたくないため、朝鮮半島を併合すると言う行動に出ました。結果はご存知の通り半島に関わり合いに成りたくない周辺国は、日本による半島併合を認める事になりました。


「③」の世界大戦時は、

中国=内乱

ソ連=内乱と欧州にリソースを集中

大英帝国=借金漬けと欧州や植民地での混乱にリソースを集中

大日本帝国=併合地と植民地を安定させたが、中国の内乱に引きずり込まれる

米国=世界で紛争を煽る勢力に武器と資金援助を行う


この頃は極東でまともに治安維持を行える国家が日本だけとなっており、実質上の覇権国家と成っていた米国は、治安維持どころかテロ支援を行う始末で、治安維持に奔走していた日本が各地の混乱に巻き込まれ疲弊する事になりました。

この頃の朝鮮は、日本の大陸進出の為の橋頭保としての立場をいかんなく発揮し、支配される事によって繁栄を享受していた。


「④」の戦後から冷戦期にかけては、ほぼ現在と同じ勢力図となっており

米国=海洋を支配する覇権国家。

ソビエト連邦=ハートランドの覇権挑戦国。オホーツク海から太平洋に進出し始める

中華人民共和国=出来たてホヤホヤで若干混乱状況が続いている


と言う状況で、戦後米ソが緊張状態に陥り冷戦に突入したにも拘らず、クリル諸島を占拠し太平洋への出口を得たソ連が、米国の支配領域に進出する勢いを見せたため米ソの関係も完全に破綻し軍拡競争に突入しました。

勢力状況としては「①」の明治開国から日露戦争頃と同じような状況なのですが、ソ連が千島列島を占領したため、また日本の軍事力が破壊されていたため、太平洋の壁が存在しなくなり、海洋を守りたい米国が朝鮮半島を防衛線として、同時に日本の経済復興に力を注ぐ事になりました。

後に軍拡競争に耐えかねた米国が、中国に対して援助と引き換えにソ連側に付かないように依頼するニクソン大統領の訪中(ニクソンショック)が行われ、それ以前に中ソ国境紛争が起こっていた事も含めると、これにより中ソ関係が完全に破綻する事になりました。

この後に中国が経済的な発展をし続け、40年後に世界第二位の大国に成ったのです。

朝鮮半島は日本が放り出した軍事的な空白地帯であったため、安全保障を確保したい米ソ中の三ヵ国が紛争に介入した末に分断。北部に北朝鮮が、南部に韓国が成立し、現在まで分断国家として存在しています。


「⑤」の現代の勢力は

米国=引き続き覇権国家だが、世界における相対的なパワーが低下

ロシア=ソ連が解体され資源と武器を売るだけの二流国家に転落。ただし軍事力はいまだに巨大で、戦力の集中さえすれば近隣諸国へのプレゼンスは健在

中国=急激に経済力を拡大させ台頭し、近隣諸国に対してちょっかいを掛ける事甚だしく、米国に名指しで敵視される事になった


現状の国家間のパワーバランスは、明治開国以来一度も無いバランスの下で成立している。これは明治時代までの間にアジア最大の国家である中華文明圏が衰退しきっており、日本の明治の始まりから坂を転げるかのように崩壊と混乱が続き、勢力の縮小が続いたためアジアに対してプレゼンスを発揮できなかった事が原因にある。

この中華文明圏が巨大な力を有する状況は、約三百年前の清国の成立までさかのぼらなくてはならず、漢民族の台頭と言う視点で見た場合は五百年以上は遡らなくてはならない。

そして近年に入り、ようやくその力を回復させたたため、パワーバランスの激変が生じ始めているのである。

歴史的に見て中華文明が台頭し始めると大陸内陸部に進出するか、限定的な鎖国体制を布き殻に閉じこもるか行うのだが、世界的に海上貿易が主要な交易ルートと成っている現代では陸路よりも海路の安定的な確保が必要となっており、中国が外資の注入による急激な発展から生じる人口爆発と消費力の拡大を考えた場合、海路の通商ルートとエネルギーの確保は絶対で、これを考えた場合、特に生産地及び資源地である大陸西方諸国との間で摩擦が生じる可能性が有る。

これらを考えた場合、エネルギー大国であるロシアとの間での紛争や、海洋利権を有する米国との対立が起こる可能性は十分あり、極東の諸国はそれらの可能性を考えた上での国家戦略が必要になると思われる。



★朝鮮半島の態度は外的要因に影響される
前述までの事から、極東におけるパワーの陸と海の属性を見て見ると、

明治開国頃
海洋国家:大英帝国(★)
大陸国家:清国、ロシア帝国(★)

日露戦争後頃
海洋国家:大英帝国、アメリカ合衆国
大陸国家:、清国、ロシア帝国

世界大戦頃
海洋国家:大英帝国、アメリカ合衆国、大日本帝国(★)
大陸国家:ソビエト連邦

戦後冷戦頃
海洋国家:アメリカ合衆国(★)
大陸国家:ソビエト連邦(★)、中華人民共和国(☆バランサー)

現在
海洋国家:アメリカ合衆国(★)
大陸国家:中華人民共和国(★)、ロシア連邦


となっており、上記の「★」を付けた勢力は、当時又は現在において極東におけるパワーの拡大や確保を推進し、その影響力を行使していた勢力と成っています。

この様に見ると「世界大戦期」の大日本帝国が軍事力と経済力を使って大陸情勢に介入していた頃だけ、単独の大国が極東アジア諸国に対してパワーによる影響力を行使していた例となっている。

同時に「日露戦争後」は国家間の格付けの終了により大国間の争いが終結したため、大戦期と同じく大国同士のパワーによる対立軸が存在していない状況と成っており、崩壊と状の中国以外は安定している。(大戦期の米国はあくまでもアジア外から影響力を行使していたのであって、直接的にコミットするのは太平洋戦争時からです)

逆に「明治開国」「戦後冷戦」「現代」の三時代は、明確な対立軸によるパワーの激突が生じており、朝鮮半島をめぐっての紛争の火種は、主にこの様な時期に生じている事に注意が必要となります。


そしてもう一つ注意しなければらないのが紛争の原因と成るアクター(争点)で、

明治開国頃の対立が朝鮮半島で生じた理由は、ロシアの南下政策による「太平洋への進出」と「中国市場への参入」および「領土拡大」が原因と成っており、そのパワーの矛先は中国や朝鮮半島に及び日本にまで向かっていました。このため日本が安全保障に危機感を抱いたのは、その争点が問題だったからです。

もし李氏朝鮮がロシアと同盟組んで、日本を脅すなりして資本を毟り取ろうとすれば、日本はロシアと交渉なり同盟なりを行う風に装い、朝鮮の戦略を挫く事が可能なのですが、朝鮮の盟主国である清朝が介入した場合、今度は朝鮮と清国の同盟による軍事圧力が日本に対して生じる事になるかも知れません。

だからと言って日本が清国と同盟なりを結んでも、今度は朝鮮とロシアが結びついたら日本に対して圧力を加えられる可能性が出てきます。日本が清国とロシア帝国のどちらと同盟関係を結んでも、朝鮮は日本と同盟を結ばなかった方と同盟を結び、日本と敵対し、日本の安全保障を危機的状況に追いやる可能性が有るのです。

この地政学バランスと実際の歴史を見た場合、当時の朝鮮半島が「現在の日本の様な侵略経路の提供戦略の下で外交内政」等を行っていた事が分かります。また大英帝国が地球の裏側にあり日本が滅びたところで、シンガポール辺りに防衛線を張れば安全保障が可能となる地理的位置に有る事を考えれば、当時の日本の指導者が「李氏朝鮮にバランシングによる侵略系を提供を行う前に、英国と同盟を組み清国とロシアを各個撃破する」と言う考えを抱いてもおかしくなく、歴史もその通りに進んでいます。


戦後冷戦頃の対立は、大戦後の生存圏と安全保障の確定から生じるモノで、米国は「大陸国家が海洋に進出させない様にするため」の戦略から、ソ連は「海洋に向かっては進出、陸上は防衛のため」の戦略から、中国は「前期は西方進出、領土確定した後期は対ソ連の為の安全保障のため」の戦略から共に朝鮮半島の知性学区的な重要性が生じる事になります。


現在の対立は、米国は「海洋利権の防衛」で、中国は「増えすぎた人口と消費を支えるための資源や土地確保のため、一帯一路への進出」と成っています。

この紛争目的によって時の大国の振り向けるパワーの向かう先が決まり、そのパワーの向かう先にある国家において、「パワーに対して抗うのか」もしくは「パワーを利用するのか」の政策決定が行われ、様々な国家外交戦略が行われるのだと考えられます。


★地政学で見ると、チュチェ思想がなぜ掲げられたのかが分かる

以上の事からチュチェ思想を考えると、チュチェ思想が登場したのは米ソ冷戦期においてターニングポイントと成ったニクソン訪中直後(同じ年)であった事を考慮すれば、チュチェ思想の本当の意味が理解できる。

チュチェ思想が決定的な形で世に出たのが1972年の初頭にあった、米ニクソン大統領の中国訪問によるニクソンショック後で、この年の12月にチュチェ思想を発信しています。

既にそれ以前の1969年の中ソ国境紛争で、中ソ関係の悪化が生じていた事を加味すると、このチュチェ思想事態が「北朝鮮が周辺国のバランス変化や中国の台頭による周辺国への進出を感じ取った上で、中ソ間をバランシングする為の内政や外交を行う下準備作りで掲げた思想である」と考える事が出来ます。

このためチュチェ思想は「中露(中ソ)間で、両大国を振り回すための覚悟を示す思想」と断じる事が出来る。

実際、故、金日成自身がこのチュチェ思想を掲げるに当たり「歴史や地理を知るべきである」と言った言葉を残しており、チュチェ思想自体が歴史的な地政学戦略に則った思想である事が確認できます。


逆に現在の日本に主体性が無いのも、これら大国間の地政学的生存競争から見出せる争点や、安全保障のパワーの振り向け先が制限されているからです。

この事から、明治頃の李氏朝鮮が主体性の無い外交を行い、日本が主体性のある戦略の下で動いていたのは、当時の周辺国の進出方向とパワーバランスの影響であって、
現在はこのパワーバランスと国家が向かおうとする進出方向が変化したため、朝鮮が主体性を有した行動をとり、日本が主体性の無い対応を行う事になったと考えられます。

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以上で前後編で述べた「地政学で見るチュチェ思想」は終了となります。

国家の動きなどは地理などの環境を見れば理解できると言う人は多くいますが、このチュチェ思想も正に環境によって作り出された思想と言う事が分かりますね!

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